路地裏から漂う、炭火コーヒーの薫り。
チェンマイからバンコクへ、一晩かけて夜行列車で移動した。宿に荷物を置く前に、まずコーヒーが欲しくなった。バンコクのホステルの人に聞いた、Go Cafe(กาแฟอาโก)へ向かう。表通りからは店の存在にすら気づかないくらい奥まった立地だが、実際に足を運んでみると、炭火でコーヒーを淹れ続けて3代目という、想像以上に骨太な店だった。今回はその様子をレポートする。
店構え|路地の奥へ吸い込まれる入口

表通りから一本入った路地は薄暗く、両側の壁には貼り紙やポスターが積み重なるように貼られている。奥までは10メートルもないくらいだが、日差しが遮られているせいか実際の距離より長く感じた。人通りも少なく、最初はここにコーヒースタンドがあるのか半信半疑のまま歩を進めた。

路地はさらに奥へと続いていて、突き当たりには古い建物の窓や配管がそのまま剥き出しになっている。作られた雰囲気ではなく、生活の延長線上にコーヒースタンドがある感じで、観光地化された道とは明らかに空気が違った。
店内の雰囲気|時が止まったような雑貨とレトロ

店の壁は、古い新聞の切り抜きやコカコーラの広告、王室関連の写真などがびっしりと貼り重ねられていた。何年分の記憶が積もっているのか見当もつかないが、一枚一枚を読み込んでいくだけで時間が溶けていきそうな密度だった。

壁の一角には赤い文字で「BREEDERS」と書かれた古い看板がそのまま残されている。由来は分からなかったが、色褪せながらも存在感を放つ文字は、この場所が積み重ねてきた年月をそのまま物語っているように見えた。

古びた新聞の隣に、色鮮やかな装飾画が貼られていたのも印象的だった。統一感を狙ったわけではなく、時代ごとに貼り足されてきたものがそのまま共存している感じが、この店らしいごちゃ混ぜ感を作っている。

カウンターの棚には、インスタントコーヒーの空き缶や古時計、ラジオなどが無造作に並んでいた。飾り付けというより、長年使い込んできた道具がそのまま棚に残っているという方が近い。QRコード決済の案内も貼られていて、レトロな空気の中にもちゃんと現代の便利さが同居している。

棚の全景を見ると、ネスカフェやミロ、コンデンスミルクの缶がぎっしりと並んでいる。既製品のインスタントコーヒーではなく、あくまで自家製の炭火コーヒーが主役だが、こうした缶詰めの道具立てが店の歴史の長さを感じさせてくれる。

奥にはPHILIPSの古いブラウン管テレビが置かれていて、リアルタイムなのか、昔のかは定かではないが、サッカーの試合が流れていた。薄暗い店内でテレビの光だけがぼんやり浮かび上がる様子は、昭和の喫茶店を思い出させる懐かしさがあった。
メニュー|25バーツから

メニューは既製のボードではなく、ドリンクの写真を切り貼りしてラミネート加工した手作りのものだった。「Ice Plum」「Coffee Ice」「Thai milk tea」と英語の手書き文字が添えられていて、Coffee IceとThai milk teaはどちらも25バーツ。

裏のページにはLemon teaやBlack tea、Ice black coffeeといったラインナップも載っている。派手さはないが、必要なメニューがひと通り揃っていて、道端のコーヒースタンドとして十分すぎる品揃えだ。

店の隅には、額に入った年季の入ったメニュー表も飾られていた。タイ語で書かれた価格は2.50〜5.00バーツと、今とは比べ物にならないほど安い。現行のメニューではなく、創業当時の名残として飾られているものだが、これだけでも店の歴史の長さが伝わってくる。
注文|タイミルクティーと、アイスコーヒー

まず頼んだのはThai milk tea。氷を詰めたグラスに、鮮やかなオレンジ色の液体が勢いよく注がれていく。見ているだけで喉が鳴った。

できあがったタイミルクティーは、甘さの奥にしっかりとした茶葉の渋みが効いている。甘ったるいだけの安いミルクティーとは違い、後味がすっと引いていくタイプで、暑い中で一気に飲み干したくなる美味しさだった。25バーツ、日本円にして約100円ほどでこの満足感は破格だと思う。
道端のコーヒースタンドで、ゆったりした時間が過ぎていく。

このまま帰るのも後ろ髪を引っ張られる思いになり、続けてCoffee Iceも注文した。グラスの中で、コーヒーと氷、下に沈んだミルクの層を丁寧にかき混ぜる。

苦味は強すぎず、炭火で淹れているぶん香ばしさがしっかり立っている。氷で薄まっても最後まで味がぼやけないのは、しっかり濃く抽出しているからだろう。

どちらも25バーツという値段設定に驚くが、値段以上に「ちゃんと美味しい」ドリンクだった。観光客向けに作られたカフェメニューとは違う、地元の人が毎日飲んでいる味なのだと思う。
炭火抽出のパフォーマンス|開店前の仕込みから

実はこの日、店に着いたのは開店時間より少し早かった。まだ準備中の店先で、店主が黙々と道具を並べているところに出くわしてしまったのだが、せっかくなのでそのまま少し離れた場所で待たせてもらうことにした。結果的に、これが一番のこのお店の楽しみ方だったと思う。

まず火をおこすところから始まる。うちわで炭を扇ぐ手元だけでも、職人の手捌きだというのがよく分かった。
しゃがみ込んで何度も何度も扇ぎ続け、白い煙がもうもうと立ち上る。マスク越しでも表情が真剣なのが伝わってきて、こちらまで自然と見入ってしまった。

炭の様子を見ながら位置を調整し、火の勢いを整えていく。この工程だけで数分はかかっていたと思う。正直、コーヒー1杯にここまで手間をかけているとは想像していなかった。

お湯が沸くのを待つ間も、店主はうちわを片手に火の番を続けていた。急かす様子はまったくなく、この時間そのものが仕込みの一部なのだと感じさせる落ち着きがあった。

沸いたお湯を使って、いよいよ抽出が始まる。ここからの手際は、見ていて飽きなかった。

タイの屋台コーヒーでおなじみの、布製の靴下フィルターにお湯を注いでいく。粉とお湯が馴染む香りがふわっと辺りに広がった。

フィルターで漉したコーヒーを、金属のピッチャーへ移し替える。同じ動作を何度か繰り返しながら、濃度を調整しているようだった。

最後に熱々のコーヒーをグラスへ注ぎ入れる。湯気が立ちのぼる様子まで含めて、一連の流れに無駄がなかった。
オープン前の30分弱、この火おこしから抽出までの一部始終を近くで見させてもらったのだが、まるでパフォーマンスを見ているような感覚だった。手際の良さはもちろん、火加減や注ぐ角度、一つひとつの所作に無駄がなく、長年やってきた人にしか出せない滑らかさがあった。コーヒーが出てくるまでの待ち時間すら、この店では見どころのひとつだと思う。
3代目が受け継ぐ「Go」の店

帰り際に少し店主のことを聞いてみると、この店は3代目だという。名前は「ゴーさん」で、店名の「Go Cafe」もこの店主の名前に由来しているとのことだった。代を重ねてここまで続いてきたというだけで、路地裏の小さなスタンドに対する見方が少し変わった。
まとめ|路地の奥でしか出会えない一杯
夜行列車の疲れた体で偶然たどり着いた店だったが、結果的にこの旅で印象に残るコーヒー体験のひとつになった。炭火で淹れるという工程そのものに手間と時間がかかっているぶん、出てくる一杯には作り手の手仕事がそのまま乗っている。派手な内装でも、SNS映えを狙った店でもないが、こういう店にこそ足を運ぶ価値があると思う。ここでの一杯だけでも、旅の目的にもなると思う。
バンコクの中華街エリアを歩く機会があれば、少し寄り道してみてほしい。路地の奥で、3代続く炭火コーヒーが待っている。
料金・評価
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 価格 | ★★★★★ |
| ロケーション | ★★★☆☆ |
| テイスト | ★★★★☆ |
| 清潔さ | ★★★☆☆ |
| リピート度 | ★★★★★ |
SHOP INFO
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | Go Cafe(กาแฟอาโก) |
| エリア | バンコク・中華街エリア |
| 住所 | 不明(地図を参照) |
| 電話番号 | 不明 |
| 営業時間 | 8:00〜17:00(Googleマップ記載) |
| 定休日 | 不明 |
| 価格帯 | 25THB前後(約100円) |
| おすすめ | Thai milk tea/Coffee Ice(各25THB) |

